中島 詩音

2022.10.03

インタビュー

「セカンドクォーター」PIST6カップ2で初優勝を飾った中島詩音選手。決勝戦の振り返りから、人生の恩師と語る恩師について、さらには圧倒的な"スプリント力"のルーツに迫りました。

Q

中島選手の経歴から教えてください。もともとは野球をやっていて、自転車競技は高校に進学してから始めたそうですね。きっかけは何だったのでしょうか。

A

小学生の頃から白球を追っていましたが、あまり上手な方ではなく(苦笑)。そんなときに高校では何か新しいことに挑戦したいな、と考えていたところ知り合いに山梨県立甲府工業高校の自転車部で顧問をやっている先生がいたんです。その方が教えている高校へ進学し、自転車競技を始めました。

Q

自転車は野球とは全く違う競技になると思います。実際に入部してみてどう感じましたか?

A

すごく楽しかったです。野球は兄の影響でやっていたので、あまり本気で打ち込めなかった部分もありました。でも自転車は楽しさを感じ、これを頑張っていこうと思えました。

Q

初めてバンクの傾斜を見たときや、実際に走ってみたときの感想はいかがでしたか?

A

初めて見たとき、「走れそうだな」と思ったんですけど、いざ走ってみると怖くて降りちゃって(笑)。初日は全く走れず、徐々に徐々に慣らしていきました。当初はバンクに対して「怖い」というイメージしかなかったです。

Q

高校時代はスプリントやチームスプリントといった短距離種目をメインに取り組まれていたんですよね。

A

長い距離が苦手だったので、やっていくうちに短距離だなと、3年間を通じてそちらに重きを置きました。

Q

中島選手の圧倒的な“スプリント力”はどのような練習で培われたのですか?

A

先生の助言を大切にしたのはもちろん、高校3年生の時にジュニアのナショナルチームに呼んでいただいたのも成長につながりました。そこで練習するようになってから、一段と伸びた気がします。

Q

その後日本大学に進学されていますが、全国大会優勝経験のある中島選手へは、数々の大学からオファーがあったと思います。その中で母校を選んだ決め手はどこにあったのでしょうか?

A

先生が日大出身だったこともあり、日大以外の大学はキャンセルされてました(笑)。

Q

日本大学へ進学してからも自転車競技で輝かしい成績を収められています。でも大学時代は競輪選手ではなく教員を目指されていたとか?

A

先生の影響から教員になりたいと思ってました。先生はすごく生徒のことを思ってくれる方で、未だに食事に連れて行ってもらっており、本当に感謝してます。今思うと、自分の人生で一番影響を与えてくれた「恩師」は顧問の先生かなと感じています。

Q

「教員」から一転「競輪選手」になると決意した決め手は何だったのでしょう?

A

教育実習に行った際に学校で「淡々と作業をやり続ける感じ」だったことが印象に残っています。頑張っていれば徐々に給料は上がっていくのだと思いましたが、それほど大きくは変わらないのではと考えた時、頑張り次第で稼げる道に進みたいとも思いました。当時、教員と競輪選手、どちらの道を選択するべきか本当に迷いました。人生で一番と言ってもいいくらい悩みましたが、最後は自転車をやりたい気持ちが強かったので、思い切って決断しました。

Q

家族や友達など周りの方に競輪選手になるということを伝えた際の反応は?

A

危ないし、安定してないしということで、母にはもうめちゃくちゃ反対されましたね(笑)。ただ父は競輪選手になることを応援してくれてたので、一緒に母を説得してくれました。最終的には、母からも「行きたい道があるならそっちに行きな」という言葉をもらえて、安堵(あんど)しました。

Q

日本大学は自転車競技の名門ということもあり、競輪選手も数多く輩出しています。今でも親交のある選手はいますか?

A

同期の谷口くん(谷口力也・熊本・119期)とかはたまに連絡取ったりしてますね。

Q

ちなみに、自転車部の同期である武山晃輔さん(ロードレーサー)の2018年のツイートに「身体が大きすぎてサーフの車内が狭く、給油口レバーに届かない」と書かれていました。当時から今くらいがっしりした体型だったんですか?

A

座ったまま給油口開けようとしたら届かなくて、それでいじられました(笑)。大学時代からウエートトレーニングを始めていたので、当時から大きかった方だと思います。

Q

続いてPIST6についてお聞かせください。PIST6カップ2(8月15・16日開催)へは約4カ月ぶりの参戦となりました。オールA級戦でしたが、どのような気持ちで臨みましたか?

A

久しぶりで不安はありましたね。でもオールA級だったので、いつもよりはリラックスできる部分もあり、どれだけ自分の力が出せるかってところに重点を置いていました。「自力出して勝ちたい!」と思っていたので、その通りになりました。

Q

前検日ではカーボンフレームやサドルに違和感があったようですが、それはどのようなものだったのですか?

A

サドルが壊れてしまい、それ自体がもう販売してなかったので、全く別物を使うことになりました。加えて久しぶりの参戦で、カーボンフレームにもあまり乗れておらず、いざ機材にまたがると違和感を覚えました。

Q

その違和感をどのように調整していったのでしょうか?

A

レースの合間にローラーに乗って、少しずつサドル位置をズラしてっていうのを繰り返してました。その甲斐あって、1日目が終わった時点である程度は以前のポジションに近づいたかなと思います。

Q

決勝は単勝オッズ1.0倍でしたが、やはりプレッシャーはありましたか?

A

めちゃめちゃ緊張しましたね(笑)。

Q

その決勝は残り2周のホームから駆ける形となり、長い距離を逃げました。これは想定していた展開でしたか?

A

野中祐志さん(埼玉・98期)が前に出たときは動かず、あとは後ろから何人か出てきたタイミングで一緒に出ていこうと考えていたので、ある程度想定していた展開でした。

Q

レース前にはいくつか展開のパターンを考えているんですか?

A

何パターンかは考えてレースに入ります。でも想定していない展開になることも多々あるので、そういうときは瞬時に判断しています。

Q

結果、見事完全優勝を決めました。1着でフィニッシュした瞬間の気持ちを教えてください。

A

本当に嬉しかったです。これまでは自分の思う通りにレース運びがいかなかったので、今回は自分から動いて、最後に差されても悔いのない戦いができました。

Q

参戦5回目で初優勝となったわけですが、これまでのPIST6の結果を振り返っていかがですか? オールA級戦を優勝したことでS級A級混合戦への思いは変わりましたか?

A

もともと級班は関係なく割り切って戦っています。オールA級戦で勝ったことで「次はS級A級混合戦で勝ちたい」という気持ちがより強くなりました。

Q

高校時代からカーボンフレームに乗っていて慣れていると思いますが、PIST6でのレースに慣れるのも早かったでしょうか?TIPSTAR DOME CHIBAの走路の感触をはじめ、使用されているギヤ倍数4.85の感覚、ハロンタイムの納得度なども教えていただけますか?

A

TIPSTAR DOME CHIBAは伊豆ベロドロームと比べても、個人的にすごく走りやすかったので慣れるのは早かったと思います。ギヤに関しては今より低いギヤも高いギヤも試したのですが、4.85がしっくりきているので感触はいいですね。でもハロンのタイムに関しては大学のときのベストと変わっていないので、もうちょっと出したいなという思いがあります。

Q

PIST6初参戦のときから乗っている「BT」のフレームや、前に履いているバトンホイールは大学時代から愛用しているものですか?

A

ホイールは選手になってから新しく買ったものを使っています。フレームは大学時代からですね。ただサドルは変えたりしているので、試行錯誤しながら自分がしっくりくるポジションに合わせてます。

Q

機材のセッティングで特にこだわっている部分はありますか?

A

特にこだわりはないんですが、ちょっとカッコよく見せたいくらいですかね(笑)。今乗っているフレームは少し小さいのですが、その分ステムとシートポストを長くセッティングしているので、そこが気に入ってます。乗るときにはテンションが上がりますね。

Q

今後乗ってみたいフレームはありますか?

A

実は今ARGON18のフレームを頼んでいます。BTのフレームは5年以上乗っているので、新しいフレームにしてみようかなと思って注文しました。

Q

同期である119期には志田龍星選手(岐阜)や堀江省吾選手(長野)、徳田匠選手(京都)や木村皆斗選手(茨城)といったPIST6でも活躍されている選手が多数います。レースのこと、機材についてなど話題に上りますか?

A

開催のときに会えば、話しますね。みんな強いのでポジションや走り方に関して、どれだけ情報を盗めるかって考えています(笑)。

Q

堀江選手のインタビューで、仲の良い選手として中島選手のお名前が挙がりました。お二人は競輪選手養成所時代から交流があったのですか?

A

養成所時代には堀江さんと、志田くんと3人でよく遊んでいました。

Q

先輩選手では、7月の高松競輪場での開催で同じ山梨の先輩・小佐野文秀選手(83期)と連係していました。開催中にPIST6の話はしましたか?

A

PIST6は話題になり、機材のことを話しましたね。また前回優勝したときに小佐野さんもいたんですが、ずっと「お前には負けないから」って言われてました(笑)。

Q

今、中島選手はレースをする上でどこに力点を置いていますか?

A

やはりスピードが重要になってくると思っています。なのでトップスピードに最も重点を置き、セッティングや練習などでも気を使ってます。

Q

中島選手が考える自転車競技の楽しさ・面白さ・魅力を教えてください。

A

一番はスピード感だと思います。高速で駆け抜ける「迫力」みたいなところを見てほしいです。

Q

最後に既存競輪について伺います。今練習している山梨県笛吹市「境川自転車競技場」は高校時代からの練習場ですか?競輪は「地元」に意味や価値を置いている選手が多いように思います。中島選手も地元への特別な思いがありますか?

A

高校時代からの練習場で、自然豊かなところが好きです。山梨県は競輪場がないので、支部の選手はみんな「境川自転車競技場」に集まって練習しています。自分たちは弥彦競輪場が地元になるんですが滅多に行くことができません。それでも弥彦でレースが開催されるときは「地元」の特別な思いで走ってますね。

Q

既存競輪を見ていると貪欲に勝ちを求める姿勢を感じます。そんな中島選手はやはり同期だとしても仲間というよりはライバルという意識の方が強いのでしょうか?

A

レースになったら同期だとしてもラインが違えば割り切ってライバルとして考えますね。

Q

高校時代の話で「長い距離が苦手」という話がありましたが、既存競輪のレースでは長い距離も関係なく踏んでいく印象があります。

A

本当は自分は捲りのほうが得意なんですけど、長い距離を踏んでいかないと上のレベルでは通用しないと思っています。ライン戦でも決まりやすくなることから、その点は意識しています。

Q

2021年5月のデビューから、2年目の折り返しが近づいています。2年目上期のご自身を振り返っていかがですか? また下期の目標があれば教えてください。

A

緊張してしまい、うまくいかないレースが多いので、さらに経験を積むことで修正を図りたいです。また下期は、S級に上がるための点数を取ることも視野に入れていきます。

Q

中島選手はコメントやインタビューを見ていても「大きいこと」を言わない印象があります。その上で、S級に昇格して獲得したいタイトルなどはありますか?

A

僕は性格的にあまり言葉に出すというより、自分の中だけで燃えるタイプです。「取りたいタイトル」の話もそうですが、大きい目標を狙うのではなく、FIを優勝してGIIIの記念競輪を優勝して…みたいな感じで段階を踏んでいきたいです。徐々に上位のタイトルを勝ち取るのが理想でしょうか。

Q

最後に既存競輪とPIST6、それぞれファンに向けたメッセージをお願いします!

A

今は自分が先行することによって、ラインで決めることを大切にしており、これからもそのスタイルを崩さずに続けていきます。またPIST6は個の戦いなので、自力を出して勝ちにこだわり、S級A級混合戦でも優勝できるよう頑張りたいです。これからも応援をよろしくお願いします!