市本隆司/伊藤信

2022.11.15

インタビュー

PIST6を戦う2選手が「世界一」の称号を手にした。市本隆司(広島)と伊藤信(大阪)は、2022年9月、アメリカ・ロサンゼルスで開催されたUCIマスターズトラック世界選手権男子スプリントに出場し、市本が50-54歳、伊藤が35-39歳のカテゴリーをそれぞれ制覇。2021年の秋以来、PIST6に出場してトップ争いを展開してきた2人が、千葉で得た自信を胸に世界へと飛び出した結果つかんだ栄冠だった。

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市本「『やってしまった』という感じ」

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200mタイムトライアルにおいて、50-54歳のUCI公認世界記録は10秒546。このタイムを上回ったのが市本だった。2021年12月にTIP STAR DOME CHIBAで10秒234を叩き出し、その開催では決勝2位まで駆け上がった。この結果に周囲は市本に対して「世界挑戦」をアドバイスし、自らも大会エントリーを心に決めた。
これまで競技の経験は乏しく「優勝は厳しい」という思いだった。迎えた本番では15人がエントリーし、200mのタイムをもとに通過が決まる予選を10秒743で3位通過。スプリントは2人が3周し先着した方が勝利となるルール。本戦に入り1回戦を突破すると、準々決勝以降は3本中2本先取で勝ち上がりとなるレギュレーションの中、ストレート勝利でベスト4入りを決めた。迎えた準決勝は3本全てで先着を許す苦しい展開も、2本目3本目ともに相手が反則で降着となり決勝に進出した。

「運よく勝ち上がることができたので、決勝は思い切っていけました」と言葉の通り、最後は2本先取で世界の頂点に立った。「どう言えばいいのか、『やってしまった』という感じでした」。金メダル獲得は自身にとって驚きの結果だった。

ロサンゼルスでの戦いを経て、刺激を受けたと強調する。「85歳以上というクラスがあるくらい、僕はまだまだ若い方といいますか。さらに年齢が上の方が、レースに向けて調整する姿は心を打たれました」。競技に近いPIST6でタイム強化をし、脚力を上げることが今後の活躍にもつながる。そう信じる51歳の世界チャンピオンはさらなる高みを見据える。

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伊藤「チームのありがたさ知った」

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市本が優勝した翌日、伊藤の出番だった。この日程、当初は異なっていたが、伊藤のレースが前倒しされたことにより実現。お互いのレースをサポートする体制が整った。頂点に向けた戦いは着実に歩みを進め、予選を出場7人中トップで通過し、本戦はシードされて準決勝から登場。準決勝と決勝いずれも2本先取のストレートで金メダルを手にした。

戦いを振り返り、「チームワークは大切だと思いました」と力を込める。市本はもちろん、55-59歳のカテゴリーを制した元競輪選手の案浦攻さんとお互いをサポートしあった。ホルダーを務めたり、励ましあったりと慣れない海外での戦いを「チーム日本」として結束。その存在について「心強かったですね」と笑みを浮かべた。特に市本の優勝は、自身のこと以上に印象的だと話す。

「市本さんの優勝は目がウルっとしてしまうくらいでした。とても高揚感があり、翌日が自分のレースなのになかなか寝付けなかったくらいです」

市本に続いた伊藤だったが、自身の快挙に対して冷静に向き合ったという。「金メダル獲得の瞬間は結構あっさりで、表彰式で『君が代』を聞いたときにジーンときました。そんなとき、『もっと違うところに挑戦してもいいのかな』と感じていました」。これまで実業団に所属し、競技にも挑んできたが、次なる栄光を目指して何がベストか考えを巡らせている。

2人に世界挑戦のきっかけを与えたPIST6。「自分の新たな一面に気づくことができた。それが本当に良かったです」(市本)、「既存競輪以上のスピードバトルが行われ、そこで切磋琢磨(せっさたくま)できることが、成長につながりました」(伊藤)とそれぞれコメントする。世界一の称号を手にし、今後どんな進化を遂げていくのか、2人の走りからますます目が離せない。