伊藤 信

2022.08.23

ヒストリー

出場7度のうち最多となる4度優勝、目下4連勝中。伊藤信選手は開催前日に行われるタイムトライアルでも10秒013のPIST6最速タイム保持者と頭一つ飛び抜けた存在になっている。まさに「マスター・オブ・PIST6」の呼び声も高い伊藤選手の競技人生やPIST6への思いに迫った。

In 2004.

  • トレーナーから転身、衝撃受けた競輪選手の姿

    自転車競技を始めたのは進学した順天堂大学3年生の時、それまでバスケットボールや陸上競技で汗を流してきた。大学への進学もスポーツ医学を学び、トレーナーになりたいという思いからだった。「母校は1年生の時、全員が寮に入ります。そこで仲良くした人が自転車の推薦で入学してきていて、彼から誘われたのがきっかけでした」。 自転車部に入部した当初はトレーナーだったが、選手へと転向した。その練習のキツさは他のこれまで経験してきた競技以上で、「自転車に乗っていると、相当追い込むことができるんですよね」と、当時を振り返りながら苦笑いを浮かべた。トレーニングは実を結び、競技開始当初から大会で上位に食い込むなど結果を残した。そんなとき、人生を変える出会いがあった。 2005年に松戸競輪場で行われた「第3回ワールドグランプリ」に、世界選手権で数々の金メダルを獲得したテオ・ボス選手(オランダ)ら海外の強豪が来日。観戦に行った伊藤選手は、彼らの勝利を予想していたのだが、海外勢相手に優勝したのは小嶋敬二選手(石川)だった。「小嶋さんの体は大きく、『なんちゅう人間がいるんだ』とインパクトがありました。競輪選手を意識したのはそこからですね」。

In 2007.

  • 競輪選手デビュー後も競技に挑戦「少しでも高いレベルで」

    日本競輪学校(現・日本競輪選手養成所)を卒業し、2007年に選手デビューした後も自転車競技に挑む。現在、実業団「岩井商会レーシング」に所属し、大会への参加を続けている。「僕は競技経験2年で競輪界入りしました。そこにはまだ自転車競技がしたい、少しでも高いレベルで競技に挑みたいという思いがありました」。 そこまで「虜(とりこ)」にした自転車競技。魅力については「最新の機材を使えば、よりスピードが出るところ」と話す。「純粋に車とかバイクとか乗り物が好きですし、自転車って見ているだけで楽しいんですよね」と笑みを浮かべた。最新機材ではオランダ代表が使っている「KOGA(コガ)」のフレームが気になっており、「硬そうなのでぜひ手に入れたいですね」。

In 2021.

  • プロとして「ケイリン」を走る幸せ

    PIST6には開幕した2021年10月から参戦する。千葉で250競走が始まると決まったときから、照準を合わせてトレーニングしてきた。「自分は競技の『ケイリン』が好きなのですが、競輪選手は大会で走れないルールになっています。プロとして『ケイリン』を250mバンクで走れることは、すごく楽しみでした」。そんな思いから、海外の選手との練習を積み、自らの脚力アップに取り組んだ。 参戦当初こそ、走りに苦しんだ時期もあったが、現在は人気を背負う選手となった。その効果は既存競輪での走りにも表れており、直近でも記念競輪の決勝に乗るなどPIST6と両方で好調を維持する。「相乗効果はありますね。250mバンクではかなりの重力を感じ、ジェットコースターのような感覚です。そんな環境でレースをすると、既存競輪でコーナーを走る時の感覚が良くなっていますね」。

In 2022.

  • 記憶に残る同期とのマッチアップ、そして世界へ

    これまで4度優勝したが、特に心に残る場面がある。2022年5月の「ファーストクォーター」ラウンド7の決勝、最終周回のバックストレートでは同期の山田義彦選手(埼玉)と競り合う場面があった。ともに優勝経験者で開幕から盛り上げてきた2人。「3コーナーすぎで並んだときは『ゾワッ』としました」。最後の直線で振り切り、PIST6初となる出場3場所連続優勝を手にした。 これまでPIST6における金字塔を打ち立ててきているが、狙うはタイムトライアルでの10秒切りだ。「早く切りたいですね。様々な選手が入ってきて、また違う走りを見せてくれると9秒台がどんどん出てくる。海外勢が参戦したときに大差で負けましたとならないよう、少しでも全体のレベルを上げていきたいです」。 2022年秋にはUCIトラックマスターズ世界選手権のスプリント種目に参戦する。「PIST6がいい機会になっていて、盛り上がる要素になるならと決断しました。レインボージャージを手にしたいです」。世界に挑んだ結果、どのような進化を遂げるのか。今後も「マスター・オブ・PIST6」の走りに目が離せない。

取材後記

レース後、伊藤選手に話を聞くと、結びの言葉は「一生懸命がんばります」。今回のインタビューで話題に上った山田選手とのもがき合いは、まさに一生懸命さを感じさせる必死の形相だった。PIST6の開始について「こんなええ話はないと思った」と朗らかに語った表情は忘れられない。今秋には世界挑戦、そしてPIST6では自身の記録更新へ。どんな場面でも一生懸命を貫く伊藤選手の走りが250mバンクをより熱くする。